おすすめ度:★★★★★ 命の重さと愛の深さに涙が止まらない号泣ドラマ
GMMTVのタイドラマ「Happy Birthday / ハッピーバースデー」(2018年)を観ました!一体なんと言ったらいいものか…こんなにも悲しい涙が流れるタイドラマを観たのは初めてかもしれない。主人公の高校生トンマイの「誕生日」にまつわる悲しいエピソードから始まり、17年前に自ら命を絶った姉タンナムの人生を少しずつ紐解きながら、日々普通に繰り返す日常、家族、友達、恋人との当たり前の関係がいかに愛に溢れ、かけがえのないものであるかをこれでもかというほど教えてくれるドラマ。生きるとはこんなにも辛く悲しいことなのか。悲しくて、悲しくて、涙が止まらない…。
弟の誕生日は姉の命日に
このドラマは第1話からすでに悲しくて寂しくて、涙が出るほどではないけど、生きること自体が複雑で大変なことだと思わされる展開に。というのも、主人公の高校2年生トンマイの17歳の誕生日、普通なら家族でバースデーケーキを囲んで誕生日のお祝いをする日なのでしょうが、トンマイはこれまで一度も家族に誕生日を祝ってもらったことがないんです。なぜなら、その日はトンマイの姉ターンナムが自殺をはかり、この世を去った日だから…。
なぜターンナムは自ら命を絶ったのか。ターンナムの自殺は家族や周囲の人たちの人生にとても大きな影を落とし、それぞれが後悔と自責の念にかられながら、なぜ彼女を死から救ってあげられなかったのかと自問自答を繰り返して毎日を生きているのでした。未来ある若者の苦悩と「自殺」というテーマ。非常に重いです。ターンナムの死をめぐる謎も多く、悲しみだけが深まるばかり。
17歳の誕生日プレゼント
そんな日々を送るトンマイに変化が訪れたのが17歳の誕生日。無口で無愛想なお父さんがトンマイに部屋をプレゼント。その部屋は17年前に亡くなったターンナムが使っていた部屋で、家具も遺品も当時のまま。17年間鍵をかけたままになっていたターンナムの部屋を、17歳になったトンマイが使うことになり、そこで出会ったのが…なんと、自殺後に幽霊として部屋に閉じ込められたままになっていたターンナム!しかも、幽霊のターンナムはトンマイにしか見えない!ここから2人の「友達」のような姉弟関係がスタートします。
弟トンマイ役を演じているのは「My Dear Loser / マイ・ディア・ルーザー」「One Night Steal / ワン・ナイト・スティール」のプルーム・プリム・ラッタナルーァンワッタナー(Pluem Purim Rattanaruangwattana)。姉ターンナム役を演じているのは、マイルド・ラパッサラン・チラウェートスントンクン。
もうこれ以上待てない
ターンナムが池で自殺した日、カバンの中にあったのは当時付き合っていたティーの誕生日プレゼントに贈った腕時計と「もうこれ以上待てない」と書かれた一枚のメモ。このメモが17年間ティーの心に突き刺さり、起きている時はターンナムのことを考え、寝ている時にはターンナムの夢を見る…。そんな毎日から抜け出せず、人気俳優として芸能界で活躍する今も、ティーの頭の中にはターンナムへの懺悔の気持ちでいっぱい。自殺って、自殺した本人だけでなく、近くにいた人たちの人生までもまるで死んだように生きることを強いてしまうんだな…とつくづく感じます。
そういう意味でも、このドラマは本当によくできた社会派の人間ドラマ。この繊細で複雑な感情の起伏のあるティー役を演じているのは、「ニラの復讐」でチャット役を演じた本格派俳優プッシュ・プッチーチャイ・カセテイン。彼のキャスティングのおかげで、このドラマのクオリティがグッと引き上げられている気がします。
トンマイはメッセンジャー
トンマイのように霊感があって幽霊とコミュニケーションがとれるキャラクターのタイドラマはほかにもあり、「Oh My Ghost / オー・マイ・ゴースト」や「He's Coming To Me~清明節、彼は僕のお墓の隣にやって来た」などがその例。仏教国のタイらしさが溢れていて個人的には大好きです。こういったゴースト系ドラマに共通しているのは、主役がメッセンジャーであるという点。
人は死んだ後、成仏してまた新しい命に生まれ変わる、というのが仏教の世界の考え方ですが、現世に何かしらの未練や因縁があり、うまく成仏できなかった場合、浮遊霊となってさまよってしまうことになります。そんな幽霊がどうしても現世に生きる誰かに伝えたいことがある場合、トンマイのようなメッセンジャーがとても大事な役割を担うことになるわけです。
トンマイは、ターンナムの元彼のティー、バイト先だった高校でコピー店経営のタイさん、お父さん、お母さんとドラマ全体を通して少しずつターンナムのメッセージを伝えていきます。当然ながら、最初は誰しもすぐには信じられず戸惑いますが、それでもターンナムと直接会話することですぐに確信へと変わり、誰もが口々に「ターンナムはここにいる」と…。
生い立ちに苦労が絶えなかったターンナムは、悩み苦しみ、最後には死ぬことですべてが終わると考えていた。17年前、自ら命を絶つために池に足を踏み入れた時は、まもなく自分の命を奪うことになる水を「温かい」とさえ感じていた。でもトンマイを通して見えてきた17年後の世界で、自分がいなければ幸せになれると思っていた人たちは、悲しみの連鎖の中にいた…。それがさらに幽霊となったターンナムをさらに悲しませることにもなり…。そう、この世は辛く悲しいことばかり。その最大の辛苦が「死」なんです。
命日ではなくの誕生日にお祝いを
ドラマの終盤、ターンナムの言葉でハッと思わされたことがありました。それは、人は死ぬと「誕生日」ではなく「命日」を記念するようになる、ということ。確かにそうなんですが、そもそもどうしてそうなるのでしょうか。生きている時はもちろん命が続いているので誕生日しか記念日がないんですが、故人にとっては命がスタートした日と終了した日の2つが記念日に。そうなった場合でも、誕生日のお祝いをしてもいいような気もします。
「ターンナムは確かにここにいる」「わたしたちと一緒にいる」という言葉を聞けば聞くほど、生前の故人を偲んで、命日に死んだことを思うのではなく誕生日に生きた証をお祝いをする、というのもすごく素敵なことだなと思いました。トンマイは偶然にも自分の誕生日が姉の命日という難しい事情でバースデーケーキを買ってもらえなかったけど、それはやっぱり悲しいです。そんなことを考えた時、このドラマのタイトルが「Happy Birthday / ハッピーバースデー」だということに改めて気づく…。
深い悲しみの先にあるもの
ドラマ終盤ではターンナムはずっと泣いていました。それどころか、トンマイもティーも、お父さんもお母さんも…。時に思いはすれ違い、傷つき、後悔し、申し訳ない気持ちとどうしたらいいかわからない感情に追い詰められ、どうにもできない自分に失望し、溢れ出るのは涙ばかり…。そう、生きることは苦難続きの旅路も同じ。先も見えず、出口もわからず…非力な自分にできるのは、ただ歩みを進めることだけ…。
それでも深い悲しみの先に必ずあるもの、それは愛なんですね…。17年後に幽霊となって現れたターンナムとともにトンマイの家族とティーに訪れた「雪解け」は、大きな愛とともに「許し」と「いたわり」をもたらしてくれました。そして、トンマイの18歳の誕生日には、みなで囲む初めてのバースデーケーキ。ここでまたこのドラマのタイトル「ハッピーバースデー」に戻るんですね。誕生日を祝う時、人は改めて「生きるってすばらしい」と思えるのかもしれません。
死んだ方がマシ、と思った時には
とにかく悲しくて、悲しくて涙が止まらないこのドラマ。それでもただ悲壮なだけじゃなく、その対岸にあるよろこびや楽しさの意味と価値、家族や周囲の人たちの愛がかけがえのないものであることをこれでもかというほど教えてくれます。疲れた時、挫折した時、人は誰しも「自分はなんのために生きているんだろう」とふと思うことがあると思います。「もう死んだ方がマシ」と思うことだってあるかもしれない。でもそんな時はなぜ今ここに自分の命があるのかを考えよう。きっとそこには大きな愛とやさしさに包まれた自分がいるはず。その人たちに恩返しをするためにも、生きよう。
GMMTVのタイドラマ「Happy Birthday / ハッピーバースデー」は、これまでみたタイドラマの中で一番と言えるほど重く悲しいドラマですが、最後にはそれが愛と優しさに変わるとても素敵なストーリーです。ぜひたくさんの人に見てほしいおすすめのドラマです。
0コメント