タイ映画「Dew / デュー あの時の君とボク」(2019年)超おすすめ!キャストとあらすじ

おすすめ度:★★★★★ 純粋な気持ちと理不尽な社会に切なくて悲しい映画!


タイの保守的な時代を背景した切ないBLがテーマの映画「Dew / デュー あの時の君とボク」(2019年)。1996年、今とは違い社会全体としてLGBTQに理解のなかった頃、タイの田舎町出身のポップとデューが出会い、お互い惹かれていくにもかかわらず、その気持ちをどうしたらいいかわからず葛藤する姿が繊細に描かれています。悲しく、切ないストーリーに、中盤以降、涙せずにはいられません。

映画の副題は英語だと「Dew - Let's go together(一緒に行こう)」になっていました。日本語訳の「あの時の君とボク」といくらか距離があるように感じましたが、実際には日本語訳のほうが内容をより深く表現しています。ちなみにこの作品は、イ・ビョンホン主演の『バンジージャンプする』をタイ版でBLテーマにリメイクしたものだそうです。


少年時代の思い出

日本語の公式サイトによると、「大人気ドラマ「The Shipper」などでBLジャンルの若手カリスマと呼ばれるパワット・チットサワンディ(愛称オーム)と、ドラマ版「バッド・ジーニアス」の新星サダノン・ドゥーロンカウェロー(愛称ノン)の二大ライジングスターが等身大の魅力を全開にして初共演!初恋に目覚めた男子たちの躍動感や動揺を、同い年の二人がフレッシュかつビビットな感性で大好演している」と紹介されています。


ストーリーの前半は少年時代のポップとデュー、後半は23年後に教師になって地元の学校に戻った大人のポップと問題を抱えた女子生徒のリウを中心に進んでいきます。大人になったポップは、Netflixドラマ「Bangkok Breaking / バンコク・ブレイキング」(2022年)で主演を務めた人気若手俳優スコラワット・カナロットが演じています。


大人になったポップは、勢いで町を出た23年前のあの日、デューに何が起きたか知らないまま大人になっていました。映画とはいえ、少年時代のポップとデューに起きたことはあまりにも残酷で、見ていて心が苦しくなりますが、デューを失った大人のポップの人生もまた残酷。過去を忘れようと努力する反面、決して忘れてはいけないと思ったり、何でもないと思ったり愛おしく感じたり、人としての繊細な感情の変化が、田舎町の思い出とともに描かれています。


舞台はチェンマイ郊外の田舎町

ポップとデューの暮らす田舎町はタイ北部チェンマイの郊外にある設定で、少年時代の2人が英語のサマースクールを受講するためにチェンマイの中心街に滞在するシーンや、大人になったポップが勉強合宿中のリウを夜中に誘い出し、チェンマイ旧市街の四方を取り囲むお堀のそばで昔話をするシーンがあります。雰囲気のあるチェンマイの街がそのまま映し出されていて、とても印象的です。


ストーリー後半で、大人になったポップの大事な思い出の場所として登場する古い空き家とベンチ、そして眼下に広がる緑深い景色の美しさはチェンマイならではと言えると思います。もしあのベンチが本当にあるならぜひ一度訪れてみたいくらいです。


見えないものが見える3Dアート

ポップとデューが出会ったのが1996年。作品のなかで使われているその時代を移すアイテムのひとつに「3Dアート」があります。普通に見るだけではQRコードのようにしか見えませんが、両目の焦点を少し寄せることで、そこに描かれた絵が立体的に見えるアートです。日本でも1990年代前半に大流行し、当時中学生だった私も3Dアートの本を持っていました。


少年時代のデューがポップにその3Dアートを見せて何が見えるかをしつこく聞くシーンがあり、その時ポップは「わからない」とめんどくさそうに答えます。そのシーンを見た時、最初は単にポップは興味がないのかと思っていましたが、映画の終盤、大人になったポップの回想シーンで、本当は見えていたけれど、そうすれば君は話を続けてくれるからそう言ったと昔を振り返ります。このシーンが本当に切なくてたまらない…

1990年代の保守的なタイでは、現在のタイとは違い、LGBTQの人たちの人権が当然のものとして受け入れられていたわけではありませんでした。少年時代のポップとデューが学校でケンカをした時に、ポップが口にする「普通がいい」という言葉がなんとも胸に突き刺さります。自分の正直な気持ちと周囲の偏見に葛藤し、そう言わせてしまう社会に最大の問題があるのだと思います。


ちょうど3Dアートのように、「それが常識だから」「ずっとそうしてきたから」と盲目にいつもの見方を変えないでいる限り、そこに確かにあるはずのアートは見えてきません。少年時代のポップとデューは、周囲には決して見えないものが見えていただけ。それが間違いてもなければ、幻想でもなかったわけです。


何度生まれ変わっても

映画の終盤、教師になったポップの前に現れた問題のある女子生徒リウが、大人のポップを少年時代の記憶に一気に引き戻すことになりますが、この展開がなんとも絶妙で、過ぎてしまった時間を元には戻せない無力感、後悔してもしきれない悲壮感、それでも失った思いを色鮮やかに感じることができる高揚感…さまざまな感情が複雑に入り混じります。ポップが待つ電車の駅に、前世の記憶を取り戻したリウがバイクで滑り込むシーンには、涙が止まりませんでした。


仏教国のタイらしい輪廻転生の考え方が反映されたとてもおもしろい展開だったと思います。しかしながら、最後にポップとリウで命綱をはずしてバンジージャンプをするラストシーンには正直「???」。チェンマイの英語講習に参加していた少年時代のポップとデューが、詩の英訳コンテストで優勝すればニュージーランドに行けるとなった際に、2人でバンジージャンプをしようと盛り上がっているシーンがあったので、その続きなのでしょうが、なぜあそこで命綱を外す必要があったのでしょうか?


最後に水中のシーンもありましたが、命綱がなかったのでその後どうなったのかといえばおそらく答えは一つ。「今度生まれ変わったら…」ということだったのかなぁ…。


映画の挿入歌Beforeという歌、感動的なメロディにタイ語の響きがソフトに広がり、思わず何度も繰り返し聴いてしまいます。

というわけで、映画「Dew / デュー あの時の君とボク」めちゃくちゃおすすめです!


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