タイドラマ「10 Years Ticket」(2022年)GMMTV 超おすすめ!キャストとあらすじ

おすすめ度:★★★★★ 事件の加害者家族と被害者家族が抱える苦しみと悲しみ、愛と優しさ、許しについて考えさせられる傑作ヒューマンドラマ


GMMTVのタイドラマ「10 Years Ticket」(2022年)を観ています!男子高校生マイの「突然の死」から始まる複雑な家族の物語。「被害者の家族」として育ったプーカオと、「加害者の家族」として育ったコンクワン。10年の時を経て再会した2人は、過去に負った大きな心の傷を乗り越えられるのか。そして謎が残るマイの死の真相は…。殺人罪で受刑中のラックと一冊の小説に隠された秘密は…。辛く悲しい生き地獄で、プーカオとコンクワンたちの止まった時間が動き出す。


男子高校生マイの「突然の死」

このドラマは、男子高校生マイの「突然の死」から始まる。マイには、小学校に上がったばかりの幼い弟プーカオがいた。マイとプーカオの兄弟は、一つ屋根の下に両親とともに暮らしていたが、実は血は繋がっていなかった(異母兄弟)。それでもマイはプーカオを本当の弟のように優しく面倒を見ていた。


マイとプーカオには、夜に屋外で映画を上映する仕事をしている父サンティがいた。幼いプーカオは街の古い映画館が好きで、高校生のマイに頼んで父親には内緒で街の古い映画館「マーカス・シアター」で古い映画を見ていた。父親はマイの犯行的な態度が気に入らず、マイだけをひどく叱った。


プーカオは幼いながらに、両親と兄マイのギクシャクした関係に気づいていた。「また映画館に連れて行って」という弟プーカオ。兄マイがなぜ古びた映画館にわざざわ行きたがるのかと聞くと、プーカオは「お父さんとお母さんがいないから」と答えていた…。


近所に住む父親の仕事仲間にもマイとプーカオに年の近い子どもたちがいて、家族ぐるみの付き合いをしていた。その中に、プーカオよりも幼いコンクワンというおとなしい女の子がいた。コンクワンには年の離れた姉ラックがいて、マイはラックと付き合っていた。そのラックがある日、街の古い映画館で「マイを銃で殺害した」という…。


マイの突然の死とラックの犯行に衝撃が走った。とても仲のよかったご近所家族は、この事件を境に「加害者」の家族と「被害者」の家族に分断されることに。事件現場で容疑を認めたラックは警察に逮捕され、その後、刑に服すことに。しかし、マイ殺害の動機については「黙秘」を続けた。


事件の直前、マイはプーカオの欲しがったターミネーターのペンダントを手渡し、涙を流しながらプーカオに別れを告げていた。マイは本当にラックに撃たれて死んだのか…。ラックはなぜマイを撃ち殺す必要があったのか…。マイの不可解な死が、弟プーカオや、ラックの妹コンクワン、さらにその周囲の人たちの人生を大きく変えてしまう…。


誰にも言えない悩みを抱え、どこか影があり、学校ではちょっと不良で、それでもプーカオや子どもたちにはいつも優しい兄マイをプルーム・プリム・ラッタナルーァンワッタナー(Pluem Purim Rattanaruangwattana)が演じています。マイが登場するシーンはどれも、孤独感が漂うもの悲しいものばかり。「Happy Birthday / ハッピーバースデー」(2018年)の時と同じ高校生役ですが、4年間の成長を感じる作品です。


プーカオとコンクワン:10年後の再会

そして、ストーリーはマイの突然の死から10年が経過した世界へ。まだ小学校に上がったばかりだった弟プーカオは成長し、高校生になっていた。兄を亡くしたプーカオのことを気にかけ、毎朝学校へと送り届けているのが、ご近所家族のなかでも年の近いプルー。プルーは、マイの葬式で悲しい表情を浮かべるプーカオを見て、マイの代わりにできるだけ面倒を見ると心に誓った。


高校生になったプーカオ役を演じているのがオーム・パワット・チットサワンディ(Ohm Pawat Chittsawangdee)。22歳で高校生役を演じても違和感ゼロ!オームのイケメンっぷりにはますます歯止めがかかりません!そして、難しい立場にいるプルー役を演じているのが、オフ・ジュンポン・アドゥンキッティポーン(Off Jumpol Adulkittiporn)。本作ではとても大人っぽいです。子役の二人もオームとオフにどことなく雰囲気が似ています!


「被害者の家族」として10年間を過ごしてきたプーカオは、子どもなりにさまざまな心の傷を乗り越えながら生きていた。そんなプーカオの前にある日、転校生として突然現れるのが、マイを殺害したラックの妹コンクワン。周囲から憐れみの目で見られるプーカオとは対照的に、「加害者の家族」として生きてきたコンクワンは、世間から「悪魔の妹」と後ろ指を刺され、学校に馴染めず、転校を繰り返していた。


コンクワン役は、「花より男子 / F4 Thailand BOYS OVER FLOWERS」(2021年)でゴーヤー(牧野つくし)役を演じたトゥ・トンタワン・タンティウェーチャクン(Tu Tontawan Tantivejakul)。ドラマとはいえ、「家族が犯罪者」という理由で世間から軽蔑され、存在さえも否定されるというのは、なんとも辛いです…。思春期の女の子で、傷つきやすい繊細さがありながら、内に秘めた強さもある非常に複雑な役柄を見事に演じています。この子の演技力の高さには拍手!そして、たまにですが、石原さとみや篠原涼子に見える瞬間があります(気のせいかな…)。


悲しみの後にやってくる怒りと憎しみ

大切な人を亡くした時、人の感情はどのように変化していくのか。それがもし、自分の親しい人に殺害され、命を落としていたとしたら…。そんな問いの答えが、プーカオの感情の変化の中にある。少年プーカオはマイのお葬式でただただ泣いていた。大好きな兄を失ったショックで、悲しみのどん底にいた。


時間が経つに連れ、そのことで家族の日常が変化した。父サンティは酒に溺れ、自殺未遂。母サイはそんな父を見て、夫婦ゲンカをしてばかり。ある日、少年プーカオが泣きながら隣近所に助けを求めたことがあった。その時に見たのは、誕生日を家族やプルーたちと過ごす少女コンクワンの姿だった。時間が経つに連れて、プーカオの中に芽生えた感情は怒りと憎しみにその姿を変えていた…。


第3話の終わりのあたり、プーカオが学校でコンクワンに一方的につっかかるシーンがあります。コンクワンが今でも大事に持っている人形は、子どもの頃にプーカオがあげたもの。それをプーカオがペンのようなもので切り裂くシーンは、見ていて激震が走りました…。怖いというより、むしろ悲しい。悲しすぎる…。


ラックが刑務所にいる理由

このドラマは本当によくできていて、エピソードを重ねるごとにストーリーが深みを増していき、第4話あたりから前のエピソードでは見えていなかった事実が少しずつ明らかになっていきます。冒頭から続くマイの死の謎。その答えを知る人物は…そう、マイを殺害した罪に問われ服役しているラックですが、そのラックが刑務所にいる理由は「マイを殺したからじゃない。マイを愛していたから」。 


10年前のあの夜、映画館「マーカス・シアター」でマイが銃で撃たれた時、ラックは意図せずマイと一緒にいた。何者かに追われ、命までも狙われていたマイは「家には帰れない。家族に迷惑がかかるから」と、ラックにカバンを預けた。この時、ラックはマイに永遠の愛を誓った。ラックはマイが銃弾に倒れた時、隣にいただけだった…。


ではなぜ、ラックは殺人の罪を被る必要があったのか…。ラックが無実なのであれば、「殺人犯の家族」として世間に後ろ指を刺されてきたコンクワンの苦しみは何だったのか…。謎は深まる…。


The Previous Love Film 

ある日、刑務所に面会に行ったコンクワンに、ラックは「高校の図書館でTの棚にある小説を探してほしい」と伝える。本の題名は「The Previous Love Film」(このドラマのタイ語のタイトルと同じ)。コンクワンはラックに「何があっても必ず見つけ出す」と約束する。この本を探すため、コンクワンはプーカオの通う高校に転校してきていた。


だが、図書館にその小説はなかった。本棚で本を探すコンクワンを見つけたプーカオは、なぜその本を探しているのかと問い詰める。なぜなら、同じタイトルの本を自宅で見つけていたからだった。10年前、兄マイが乗っていた父親から譲り受けたバイクのポケットの中にあった。母サイはその本を抱きしめ、涙ぐんでいた…。母親は「結婚する時に友人からもらったもの」だと言うが…。


プーカオは本の片隅に書き留めてあったメモを見つけ、兄マイとラックが愛し合っていたことをこの時初めて知ることに。マイとラックは付き合っていることを周囲に隠していた。なぜなら、マイが生徒でラックが教師だったから…。そして、このことに気づいていたマイの継母サイ(プーカオの実母)は、マイにラックと別れるように厳しく進言していた…。


「この愛はいつか正しくなる。だから諦めないで。一緒に闘ってほしい」というマイに、「私たちの関係は不適切」と涙ながらに抗うラック。好きになってはいけない2人だったんですね…。


どちらも嫌いになることができなかったプルーとゾー

マイの死を境に仲のよかった家族は分断された。それでも、幼なじみのプルーとゾーはプーカオとコンクワンのどちらか一方の味方につくことはできなかった。仲違いする2人を仲直りさせることはできなかったが、プーカオとコンクワンのそれぞれの気持ちを思いやり、それぞれの友達でいつづけた。


大学生になったプルーは、子どもの頃から見守ってきたコンクワンに恋心を抱いていた。ゾーはいつも一緒にいたプルーのことが気になっていたが、同時にプルーのコンクワンへの気持ちにも気づいていた。友情を超える感情が、プルーとゾーには生まれていて、これがまたさらにストーリーを複雑で切ないものにしています…。


このドラマを見ていて思うのは、ゾーがいてくれて本当によかったということ。プーカオのこともコンクワンのことも大好きで、プルーのことも大切で、いつも自分たちの間にある見えない「絆」を何よりも大事にしています。きっとあの事件がなくても、ゾーは同じようにみんなのことを好きでいたんだと思う。どこまでも苦しく悲しい生き地獄で、ゾーの存在には本当に救われます。


ゾー役を演じているのはヴィウ・ベンヤーパー・ジーンプラソーム(View Benyapa Jeenprasom)。同じくGMMTVの超おすすめタイドラマ「55:15 NEVER TOO LATE」(2021年)、「The Shipper」(2020年)にも出演しています。


止まった時間が動き出す

マイの古いバイクを譲り受けたプーカオはある日、「The Previous Love Film」の小説を持って、コンクワンを乗せ、ラックのいる刑務所へ面会に向かう。真犯人がラックではないことを知らないプーカオは、本を盾にとり、「なぜ俺の兄を殺したんだ!」とラックを責め立てた…。


そんなプーカオにラックは「無条件にマイを愛してくれてありがとう。今もあなたの兄として愛してくれて、ありがとう。あなたのお兄さんを傷つけてごめんなさい」と、優しい言葉をかけ、涙を浮かべた。刑務所でラックは別の受刑者に、マイとの子どもをみごもっていたが死産だったことを打ち明けていた。それも「家族は知る必要ない」からと、「誰にも伝えない」と話していた。


帰り道、池のほとりで、悲しみが止まらないプーカオを優しくなぐさめるコンクワン。多分、2人が一番お互いの心の傷を理解している。加害者側と被害者側とに別れていても、あの事件を境に人生が音を立てて崩れていき、10年間耐え難い苦しみを味わってきたのは同じだから…。


自分のことを「大嫌いじゃないのか?」と聞くプーカオに、コンクワンは「怒りが込み上げるだけ。一度も嫌いになったことはない」と言う。あの日から止まったままになっていた2人の時間は、あの本をきっかけに、少しずつまた動き出した…。


「兄ができなかったことを自分が全部経験する」。そういって生徒会長に立候補したプーカオ。大切な人を亡くした悲しみは人それぞれ計り知れないけど、この世界に消えない命なんてないのも事実。誰しもいつかは大切な人の死を受け入れ、悲しみを乗り越えて、すべてを許し、前に進んでいかなければならないんですね。


コンクワン:ここ何年か、ひどいことが何度も起きたけど、でももしこれからお互いに怒らなくなったら、お互いを嫌わなくなったら、傷つけあうのをやめたら、すべていい方向に進んでいくわ。過去に起きたことはもう終わりにしよう。
プーカオ:過去に起きたことを終わらせたくない。昔の自分に戻りたくないんだ。新しい人間になりたい。それから自分が犯した過ちを償うために、なんでもするつもりだ。やり直すチャンスがほしい。


マイとプルーの闇バイト

ドラマが進むにつれて、マイが生前お金を稼ぐためにマーカスシアターの友人ソーと薬物絡みの「闇バイト」をしていたことが少しずつ明らかになっていきます。これはヤバい…。


マイがまとまったお金を必要とした理由は、家を出て、本当の母親ラニャと一緒に暮らすためだった。そして、10年経った今、プルーがソーと一緒に薬物の取引を代行したり、運んだり、若者相手に売ったりしている。プルーは、痴呆が進むおばあちゃんの医療費のために、お金が必要だった。


しかも話はもっと複雑で、コンクワンの父親は事件後に校長を辞め、人に会うことが少ないからと、薬物を扱う場所でそうとは知らずに働いていた。同じように、コンクワンの母親は家政婦としてマフィアのボスの自宅に清掃に行っていた。プーカオの友達チャーリーも学校でのドラッグ販売に絡んでいる。闇組織とドラッグが、関係する人々の命を危険に晒している。これはヤバい…。


サンティ・ムービー最後の夜

マイが家を出ると決めたあの日は、父親サンティが経営する野外映画の最後の日だった。映画の上映が終わり、ラックと落ち合ったマイ。そう、2人は駆け落ちをするために家を出た。ラックのお腹の中に宿っていた新しい命と、本当の母親ラニャと一緒に静かに暮らすため…。


だが、母親は嘘をついて、マイが用意したお金を持って姿を消していた。大量のドラックを運んで預かった大金を持ち逃げしたマイは闇組織に追われ、マーカス・シアターの客席で背後から撃たれた。


あろうことか、マフィアの息子である刑事に犯行の揉み消しを持ちかけられたラックは、先々家族に危害が及ぶことを恐れ、すべての罪を被り、口を閉ざした。これが事件の真相だった…。


正しい愛、間違った愛

「愛が間違いなんじゃない。時間と場所が間違ってる」。マイの継母サイ(プーカオの実母)が、死んだマイと受刑中のラックのことをこう表現するシーンがあります。そして、「間違っているなら、止めなければ」とも言う…。


「間違った愛」を止めることができなかったから、マイは死んでしまったんだろうか…。いや、多分違う。そもそも、愛に正しいも間違いあるはずはない。


しかし、サイの言葉の真意はもっと深かった。サイはサンティ(プーカオの実父)と結婚する前、愛する女性ピンと一緒になることができず、親の言う通りにサンティと結婚し、プーカオを産んで家族を持った。サンティの連れ子だったマイの母親にもなったが、「サンティを愛したことは一度もなかった」という。

このトラウマが、サイの「正しい愛のみ世間に許される」という考えに発展していった…。このドラマのシナリオ、何重にも複雑です…。


止まらない暴力と悲しみの連鎖

マイの突然の死をめぐる真相が徐々に明らかになり、ドラマはいよいよ佳境へ。しかし、ここでまた衝撃が走る事態が…!コンクワンの母ヴィーナが、自宅でマフィアに襲われ、命を落としてしまう…。その前日、コンクワンの父が突然、警察に不当逮捕され、身の危険を案じて家族で家を出ることを決意した夜の出来事だった。


10年前のあの日から止まらない暴力と悲しみの連鎖。マイの死はラックの犯行ではないことがわかり、ようやくプーカオとコンクワンが仲直りをし、2つの家族の和解も進んでいくかのように見えた矢先の出来事だった…。


なぜここまで悲劇が続くのか…。ドラマ終盤で描かれているのは、一度関わると簡単に断ち切ることのできない反社会性力の恐ろしさ。プーカオとコンクワンの家族をめぐる悲劇もそうだし、マーカス・シアターのオーナー・ピアックと彼を養子にしたマフィアのボスもそう。いつまでも、どこまでも追いかけてくるこの感じ、怖すぎる…。


必要なのは「許す」こと

10話をすぎたあたりから、どのシーンも誰かがどこかで泣いている、そんな状況が続くとても悲しいドラマ。マイの死をめぐるサスペンスも、ラックの逮捕も、コンクワンの母ヴィーナの襲撃事件も、チャーリーの復讐も、マーカス・シアターでの対決も、どれも悲しくて仕方ない…。


悲しみや対立からふつふつと湧きあがる負のエネルギーはやがて憎しみとなり、またどこかで誰かを傷つける。そんな悪循環が延々と続く。それではいけない。そんなんじゃ誰も幸せになんかなれない…。ドラマを通して、コンクワンが笑顔になれない理由はそこにある。


最後の最後、いろいろなものを失って人は気づく。悲しみを受け入れ、怒りや憎しみの感情を超えて、誰かがどこかで不毛な争いを止めなければならないと…。許すことは簡単なことじゃない。だからこそどこまでも許せず、報復の連鎖は続いていく。でもそれでは、誰もがもっと傷つき、苦しむだけ。そしてそれを見て一番傷つき、苦しむのは自分でもある。


大事なのは、それぞれが自らの罪をつぐない、互いを許しあい、悲しみの悪循環を終わらせること。それは時に犠牲を伴うかもしれない。第16話(最終回)で、手錠と足枷に繋がれたラックが母親ヴィーナの葬儀に来るシーンがそれを物語っている…。


Unlovable

プーカオ役のオームくんが歌うこのドラマのOST「Unlovable」。このドラマ、メインキャスト全員がそれぞれ主役級の俳優さんばかりで、制作サイドの本気度がわかります。しかも、GMMTVでありながら、オームくん他人気俳優さんたちの「アイドル色」よりも、社会派の超シリアスなストーリーを重視した展開はお見事!


とっても長くなってしまいましたが、このドラマを観るのは正直すごくしんどい…。でも、ドラマを観ながら自分も一緒に、プーカオとコンクワンの2つの家族の悲しみを乗り越えていっているような感覚にもなってきて、途中で観るのをやめることができませんでした…。


人生ってとことん悲しい。


でも、だからこそ、ふとした瞬間の喜びや幸福感が尊いんだと感じました。


というわけで、GMMTVのタイドラマ「10 Years Ticket」(2022年)はとてもおすすめの作品です。







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