おすすめ度:★★★★★ これは絶対に見た方がいい。牙を剥いた自然の脅威と国境を超えた決死のレスキュー劇を描いた実話に基づくドラマシリーズ。
Netflixでタイドラマ「ケイブ・レスキュー: タイ洞窟決死の救出 / Thai Cave Rescue」(2022年)を観ました!このドラマは、タイのタムルアン洞窟で2018年6月23日に実際に起きた地元サッカーチームの子どもたちの救出劇の実話を基に作られた作品。記録に基づく超リアルなストーリーと、詳細な描写で鮮明に映し出される災害現場での緊張感に、トリハダが止まりません!事故が起きてからの状況把握と情報収集、そしてリスク判断からの意思決定。世界が固唾を飲んで見守った世紀のレスキュー劇のすべてがここに凝縮されています。
タムルアン洞窟に閉じ込められた13人の物語
このドラマの舞台は、ミャンマーとの国境に近いタイ北部チェンライの街。少年サッカーチーム「ワイルド・ボアーズ」のメンバー12人とコーチの計13人が向かったのはタルムアン洞窟。エイク・コーチの引率のもとで、子どもたちはこの洞窟を懐中電灯片手に探検するのを楽しみにしていた。ところが、楽しいはずの洞窟探検は、例年よりも早く訪れたモンスーンの大雨によって、一瞬にして命の危機へと一変してしまった…。
Netlixによると、作品のリアリティを追求するために、ワイルド・ボアーズの12人は全員地元の少年たちを起用し、撮影は彼らの実際の自宅で行われたんだとか!これはすごい!というのも、最近流行のタイドラマは人気の韓国ドラマやKポップに大きな影響を受けていて、起用される俳優さんたちは、色白だったり、欧米人とのハーフやクオーターだったり、容姿も体格もタイ人離れした感じの人がメインになっていることが多いからです。
スターやアイドルは誰もが憧れる存在だし、それはそれでよいのですが、逆に現実離れしていてそこにリアリティがないのも事実。その意味で、このケイブ・レスキューはやはり普通のドラマとはちょっと違う。タルムアン洞窟で起きた奇跡のレスキュー劇を、どこまでもリアルに再現することに重きが置かれています。ただし、固有名詞などは実在のものからドラマ制作用に変更が加えられています。
子どもたちに生き延びる術を教えたエイク・コーチ
ケイブ・レスキューで、タルムアン洞窟に閉じ込められた13人の中で、中心的な存在となっているのがサッカーコーチのエイク。幼い頃に家族を亡くしたエイク・コーチは、子どもの頃から10年間、仏教のお寺で僧侶として修行を続けた後に、子どもたちにサッカーを教えるようになった。そして、厳しい仏門修行で得たさまざまな学びと精神力が、タルムアン洞窟で危機に襲われた子どもたちに「生き延びる力」を与えた。ドラマの中でも描かれていますが、レスキューチームの到着まで、洞窟内で全員が無事でいたことがそもそも奇跡だったんですね。
ワイルド・ボアーズのコーチ・エイク役を演じているのは、ビーム・パパンコーン・ラークチャレアムポート(Beam Papangkorn Lerkchaleampote)。Netflixオリジナルシリーズ「The Stranded / ロスト・イン・ウォーター 神秘の島」(2021年)でが、不思議な力を持つ島の青年クラームを演じたとても将来有望な俳優さんでした。ドラマのラストシーンで「For Beam」というメッセージが出てきますが、「ケイブ・レスキュー」の世界配信(2022年8月)を待つことなく、2022年3月にこの世を去ってしまったそうです。
状況把握、情報分析、リスク判断、意思決定
このドラマの最大のポイントは、タルムアン洞窟に13人が閉じ込められてから全員無事に救出されるまでの18日間、刻一刻と変化する状況の中で、チェンライのナロンサック・オソッタナコーン県知事の指揮の下、多くの専門家が知恵を絞り、技術的に実行可能で、最もベストだと考えられるプランを戦略的に実行に移していったところにあります。
絶望的な状況でどこに希望があるのか。暗闇のなかをわずかな細い光を頼りに手探りで進んでいくような感覚の中、何度となく続く期待と落胆の繰り返し。最初は、タイ王国海軍の協力で進んでいたナショナルチームは、次第にイギリス、アメリカ、オーストラリアなどの洞窟ダイビングの専門家や災害救助経験が豊富な米軍を巻き込んだ国際プロジェクトチームへと発展していく。
気象情報や洞窟の地形に関する情報収集や分析からスタートして、洞窟ダイバーのアドバイスを中心に複雑な地形の洞窟内での救出作戦が、科学的かつ理論的に進められていく。その一方で、続く失敗に次ぐ失敗。子どもたちの保護者は不安と焦りを募らせ、救出チームの専門家たちは疲労と苛立ちを抱えていく。モンスーンの雨雲にはなすすべもなく、救出作戦の指揮を執るチェンライ県知事は、雨が少し降り止むたびに戦略変更の決定を迫られる。
全員生きて帰れる保証はない。それどころか、雨足は強まり、タルムアン洞窟内の水位は上昇。排水による水位調整も限界に達し、洞窟内の酸素濃度は生存が危ぶまれるレベルに。この絶望的な状況で、一体何ができるのか…。そして、何人の命が救えるのか…。ハラハラが止まらない展開に、第2話からはゾクゾクしっぱなしです!
水理学者のケリー役で登場するのが、人気女優のヤヤ・ウッラサヤー・セパーバン(Yaya-Urassaya Sperbund)。タイとノルウェーのハーフのヤヤは、タイ政府と協力して地方都市の利水支援をしているアメリカ人として、タルムアン洞窟に流れ込む大量の水を少しでも食い止めるためにさまざまな手を尽くします。ケリーと地元の人たちとの垣根を超えた結束も見どころ。涙が出ます。
Keep Holding On:ドラマが描く家族愛
このドラマを通して描かれている最も大切なものは「家族愛」。なにはさておき、サッカー少年12人がまだ子どもで、一刻もはやく家に帰りたいと思っている、保護者は身を引き裂かれる思いで子どもの帰りを待っている、というのがありますが、しかし、このドラマが描く家族愛はそれだけじゃない、
チェンライのようなまだまだ貧しい家庭も多い地方の農村地帯では、病気や事故などいろいろな理由で親や兄弟姉妹を亡くした子どもも多い。バンコクなどの都市部に出稼ぎに行っている親と離れて、祖父母や親戚と暮らしている子どももいる。そんな子どもたちを守り育てる大人がいる。そして、洞窟に取り残されてしまった13人を心配し、ボランティア活動に協力したり、救出作戦に力を貸してくれる人たちもいる。
洞窟でエイク・コーチは「俺たちは家族だ」と子どもたちを励まし続けたように、タルムアン洞窟を通じて繋がったたくさんの人たちが、とても大きな家族愛を胸に抱き、子どもたちの無事の帰還を祈り続けた。The Toys が歌うこのドラマのOST「Keep Holding On」を聴いていると、13人の命を守るために最後まで希望を捨てなかった人々の思いと、それが生んだ奇跡がフラッシュバックしてきます。なお、この事故では、レスキュー活動により2人の犠牲者が出ています。
メイキング映像
「ケイブ・レスキュー」はタイドラマではありますが、作品そのものはアメリカとタイの合作。全体的なディレクションだけでなく、細部にこだわった映像の作り込みや外国語を取り込んだ脚本等を見ていると、前述の「The Stranded / ロスト・イン・ウォーター 神秘の島」に似て、やはり国際的な動画配信を前提とした「タイが舞台」の「アメリカ的な作品」なのだなとは思います。
しかし、欧米の制作チームが描く作品にありがちな「ステレオタイプ」に満ちたタイ(あるいはアジア)が描かれているわけではなく、タイの人々の価値観や今の社会に息づく文化習慣を、タムルアン洞窟での事故をモチーフに巧みに描き出している点で高く評価できると思います。欧米人でもタイ人でもない立場から見て、このドラマには特に違和感や不快感を感じませんでしたが、そういう作品は実はそんなに多くないのが現状です。
この作品は、タイ映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(2017年)のバズ・プーンピリヤ監督と、タイ系アメリカ人のケヴィン・タンチャローエン監督が製作総指揮にあたっているので、タイ人の目線で描くタイと、国際的な感覚で描かれるタイが絶妙なバランスで折り重なって、ステレオタイプな「フェイク感」がないのだと思います。
というわけで、2018年に世界が目撃したタルムアン洞窟の奇跡を描いたタイドラマ「ケイブ・レスキュー: タイ洞窟決死の救出 / Thai Cave Rescue」は、絶対に観た方がいいとってもおすすめの傑作ドラマです!
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