おすすめ度：★★★★★ 昼メロに見えてそうじゃない！社会派BLドラマ
GMMTVのタイBLドラマ「Dark Blue Kiss / 僕のキスは君だけに」（2019年）を見ました。オープニングを見たときの第一印象は日本の「昼メロ」みたいで、「大袈裟で安っぽい感じのドラマかなぁ...」と思っていたのですが、エピソードが進むにつれてそのイメージはいい意味で裏切られました。ピートとカオが前作ドラマから別シリーズ化されたのも、テイ＆ニューが一躍大人気俳優になったのも納得。胸キュンだけのBLラブコメとは違う社会派ドラマ。全世界で放送してほしい傑作BLドラマのひとつ。
Dark Blue Kiss といえば「テイ＆ニュー」
このドラマの放送は2019年。古さはまったく感じないのですが、実は意外と時間が経っていて、「テイ＆ニュー」のここ数年の大活躍は日本も含め周知の事実であることを思うと、観るのが遅すぎた…とさえ思えてきます。私は今、「Dark Blue Kiss」をU-NEXTで見ていますが、GMM TVの公式YouTubeチャンネルでは無料配信も行われていて、英語のほかに日本ファンクラブによる日本語の字幕もあります。
このドラマの主人公は、工学部に通う大学三年生のピートとカオ。御曹司のピート役をテイ・タワン・ウィホクラット（Tay Tawan Vihokratana）、家庭教師のアルバイトをしているカオ役をニュー・ティティプーン・テーシャアパイクン（New Thitipoom Techaapaikhun）が熱演しています。
Dark Blue Kiss が深いワケ
タイに限らずBLを描いた作品では、多くの場合、主人公自身がゲイであることに戸惑い、ためらい、親や家族、友人など周囲の人たちにそれを隠してきたにもかかわらず、どこかの時点で気づかれたり、誰かに暴露されたりしてしまい、ある人には優しく受け入れられるものの、別の人には激しく拒絶される、といったような複雑な人間関係が展開されることが多いのですが、このドラマでは主にカオの視点でその苦悩が繊細に表現されています。
いい人間になるのはゲイだからじゃない
第5話で、ピートがカオを自宅に招き、ピートのお父さんと食事をするシーンがあるんですが、そこでお父さんは2人が恋人であることを喜んでくれます。そこで、ピートのお父さんはカオに「お母さんには話した？」と聞きますが、話せていないカオは「まだ準備ができていない」と答えます。
ピートは「なんで話さないのかわからない」と簡単にいうけど、お父さんは「それぞれの家庭で親は子の育て方が違うから」と、カオに時間をあげるように言います。その後、カオとピートのプールサイドでの会話がショックでなりません…。
ピート：俺なんか、自慢の息子にはなれないと思ってた。今日は父さんに褒められてうれしかったよ。
カオ：「いい人間になった」ってこと？
ピート：そうじゃない。なぜ俺たちは秀でてる証明が要る？他の人と同じなのに。
カオ：セクシャリティが親を失望させるから。いい人間で、いい職について、自慢の子になろうとする。
ピート：くだらない。いい人間になるのはゲイだからじゃない。
セクシャリティに関する「周囲の目」（要するに偏見や差別）をどのように乗り越えていくか、特に「親」の理解という点で、親子の関係性や期待を壊すことがどれほどまでに難しいことか、Dark Blue Kiss を見ていると強く感じます。タイの大人気BLドラマ「2gether」「SOTUS」でもここまで本気の親子問題は描かれてはいませんでした。
誰もが望めば結婚できる、わけじゃない
第8話でのデート中のピートとカオの会話。なんだか切なくて悲しくて… 大学三年生の2人からすれば大人の未来はまだ少し先に思えるだろうに、「他の人と同じなのに、自分達は違う」とわかっているピートとカオは、社会が2人をどう認めないかについても強く理解している…。
ピート：俺たち、どうなるかな。結婚しようか。
カオ：そんなことまで考えてるの？タイではムリだよ。
ピート：外国で結婚しよう。
カオ：君と結婚したいかな。
ピート：離れられないだろ。
カオ：結婚なんて考えたことなかった。今のままで十分幸せだよ。
ピート：適当に答えるな。俺は真剣だ。
カオ：僕もだよ。ここに君がいて僕がいる。それで十分なんだ。
ピート：いい未来にしたい。お前が頼れる男になりたい。安心してほしい。いつもそばにいる。約束する。
日本もそうですが、どうして愛し合っていても異性じゃないと結婚できないんだろう？自治体の同性パートナーシップ制度も少しずつ広がってきてはいるけど、男女の結婚とは到底同じじゃない。これってすごい不公平だし、そこに絶対的な差別があるように思えて、すごく悲しい。
やっぱり言えない
2人だけなら毎日楽しくて仕方ないのに、そこに周囲の誰かが入ることでいつも2人の間にちょっとした溝が。一番の問題児はカオが家庭教師をしている高校三年生のノン。ノンはカオのことが一方的に好きで、カオが気持ちには応えられないと拒んでいるのに、次々とやりたい放題。というのも、ノンはカオのお母さんが勤務する高校の校長。家庭教師も校長の頼みで渋々やっていましたが、第9話ではついにノンが原因でピートとカオが大ケンカしてしまいます。
カオがノンの家庭教師を隠れて続けていたことを知ったピートが、「カオに嘘をつかれた」と思い激怒し、そこから「カオは友達でもない」と吐き捨てて絶交状態に。一方のカオは、ノンの付き纏いはピートとの関係をオープンにしてこなかったことが原因で起きたと自責の念に駆られ、失意のどん底の中、お母さんに自分のセクシャリティについて打ち明けようとしますが…
そう、そんなに簡単にできることじゃないんです。生まれてから二十年以上も内に秘めてきたことを、いきなりオープンにできるわけがない。お母さんを失望させてしまうという思いと、拒絶されたらどうしたらいいかわからないという思いで、カオはやっぱり言えない…。
でも、それは当然のこと！言うか言わないかなんて、自分が決めることで、他人がどうこう言えることじゃない。言わないといけないわけでもなければ、言わなかったから罪になるわけでもない。時が来て、伝えたいと思えたら伝えればいい。そうでなければ、ムリすることなんかない。誰もカオを責めることはできない。
カオを信じてSNSで世間に声をあげたピート
ピートとカオの関係はノンの仕業で悪化するばかり。しかも、ノンの嘘でカオは「セクハラ教師」のレッテルを貼られ、そのデマでインターンシップがダメになり、塾での講師アルバイトもダメになりかけ、ノンの父親（校長）には警察に訴えるとまで言われて…。
そんな時、SNSを使って無実を証明してくれたのがピート。ちょっどドラマ仕立てではあったけど、口も聞いてくれない状態だったのに、カオを信じて世間に声をあげたピートはめちゃくちゃカッコよかった。ゲイであるがために、噂され、誤解され、批判され…。そんな社会は絶対に間違っている。
そして第11話、傷ついて涙が止まらないカオと優しく寄り添うお母さんの会話が心に突き刺さって仕方がない…。世界中でこんな愛に溢れた会話が親子でできたら、自分のセクシャリティについて悩む子どもはいなくなるんだろうな…。このドラマは本当に、タイだけでなく、LGBTQライツを取り巻く社会の現状をよく映し出しているように思います。
お母さん：私があなたを育てた。あなたのことはわかってるわ。
カオ：母さん…
お母さん：男性に惹かれるのよね？
カオ：…
お母さん：カオ、何があってもあなたの全てを愛しているわ
カオ：ごめんね
お母さん：なぜ謝るの？
カオ：がっかりさせてごめん。
お母さん：がっかりなんてしてない。私こそごめんね。あなたが悩んでいるのに気づけなかった。あなたを守りきれず、他人に非難されるのを許してしまった。
カオ：僕のせいで母さんまで非難された。早く打ち明ければよかったのに。怖かったんだ。
お母さん：なんとなくわかってたわ。でもあなたとどう話すべきか考えてたの。「責められてる」とあなたが誤解するのを恐れてた。勇気がなかったの。
カオ：そんなことない。すごくうれしいよ。失望せず理解してくれて。
お母さん：泣かないで。失望したことなんてない。いつも誇りに思っているわ。
もうひとつのストーリー
ピートとカオとは別に、伏線としてもう一組描かれているのがカフェを経営するサンとケンカっぱやい大学３年生のモーク。サンのカフェで働くことになり、最高のコーヒー豆を探す旅では2人の距離が大接近！こちらもこちらでいい話です。でもピートとカオに比べると、印象はやや薄めかな…。こちらは普通の胸キュンBLストーリー的ですね。
というわけで、長くなってしまいましたが、GMMTVのタイBLドラマ「Dark Blue Kiss / 僕のキスは君だけに」は胸キュンだけじゃない、とっても社会派なメッセージ性の強い超おすすめBLドラマです！
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